「これ、食べれますか?」”ら抜きことば”はどうしてできた? ~ことばの乱れ②~ | カンヴァス~徒然国語日記~

2015年8月4日火曜日

「これ、食べれますか?」”ら抜きことば”はどうしてできた? ~ことばの乱れ②~


 みなさんも、普段、こんな日本語を耳にしたり、あるいは使っていたりしませんか?


  「これ、食べれますか?」
  「この本、図書館で借りれるよ


一般に、「食べることができる」と言いたいときには「食べられる」、「借りることができる」と言いたいときには、「借りられる」と言う必要があります。


 本日は、そんな「ら」が抜け落ちてしまった、いわゆる「ら抜きことば」がどうしてできてしまうのか、ということを少し考察したいと思います!






 さて、上で挙げた会話の例。
 正しく変化させるなら、

  「これ、食べますか?」 → 「これ、食べられますか?」
  「この本、図書館で借りれるよ」 → 「この本、図書館で借りられるよ」

 とする必要があるわけです。


 このように、「~できる」という可能の意味を表すとき、語中の「ら」を抜かしてしまうことがあります。

 「ら」が抜け落ちてしまったことばのことを、「ら抜きことば」と呼びます。
 そのまんまですね。


 この「ら抜きことば」、言葉の使い方としては「誤用」とされますが、実際、みなさんもついつい使ってしまうことってありますよね?

 私はあります(笑)。


 これも以前紹介しました「全然+肯定」と同じく、少し前までは「日本語の乱れだ!」と叩かれまくっていましたが、最近ではそんな指摘もあまり耳にしなくなりました。

 「ら抜きことば」が私たちの生活になじんできている証拠でしょう。


 いずれ、「ら抜きことば」が「正しい日本語」になる日がくるかもしれません



 そうはいっても、今のところ「ら抜きことば」は「誤用」であると言えます。

 ただし! 「ら抜きことば」をただの誤用として切り捨ててしまうことはできません。


 実はコレ、きちんとしたルールに基づいて変化した形だと言えるんですね。


 そもそも、なぜ「ら抜き」の形に変化してしまうのか?

 変化の原因はズバリ、可能形と受身形が動詞によって不統一であることにあります!


 う~ん……これだけではさっぱり分からない。

 というわけで、「話す」「読む」という語を例にとって考えてみましょう。


 一般に、「話す」を
  • 可能の形に変えると、「話せる
  • 受身の形に変えると、「話される
となります。

 同様に、「読む」について考えてみると、
  • 可能形は「読める」。
  • 受身形は「読まれる
です。


 このように、「話す」や「読む」という動詞の可能の形と受身の形は異なると言えます。



 それでは、ら抜きことばになってしまう「食べる」と「借りる」を考えてみましょう。


  • 「食べる」の可能形は「食べられる」。
  • 「食べる」の受身形は「食べられる」。

  • 「借りる」の可能形は「借りられる」。
  • 「借りる」の受身形は「借りられる」。


 お分かりかと思いますが、ここでは可能形と受身形の形が同一になっています。

 このように、可能と受身を表す動詞の形は、その動詞の種類によって異なるわけです。


 しかし、このままだと動詞ごとに変化の仕方が異なっていて、統一性がない。
 その上、可能形と受身形の区別がつきにくい……!

 それらの問題点を解消するために生み出されたのが、何を隠そう「ラ抜きことば」です!


   「『食べる』の可能形を『食べられる』にしちゃうと、受身形と一緒になっちゃうから、分かりづらいなあ……。動詞によって変化の仕方が違うのもややこしいし。
    そうだ! 『食べる』を、『話す』とか他の動詞と同じように変化させちゃえばいいんだ!」

 と、無意識のうちに考えた私たちの脳が、ラ抜きことばを生み出しました。



 もうちょっと詳しく見ていきましょう。
 「話す」、「読む」などの「ら抜きことばにならない動詞」は、
  • 「話す [hanasu]」→「話せる [hanaseru]」
  • 「読む [yomu]」 →「読める [yomeru]」
というように、最後のウ段音[~u]をエ段音[~e]に変え、「る[ru]」をつけることで、可能の形を作り出しています。


 これを、「食べる」「借りる」に適用すると……
  • 「食べる[taberu]」→「食べれる[tabereru]」
  • 「借りる[kariru]」→「借りれる[karireru]」
となりますよね。

 はい! これで、「ら抜き言葉」の完成です!



 このように、誤用だとされることばの使い方も、実は理論だった文法の変化に基づいていることがあるわけですね。


 そんな文法的には自然な「ら抜きことば」。何度も書いているように、誤用は誤用。
 テストで書くと当然バツを貰いますし、話し言葉はともかく、書き言葉で用いると違和感を抱く人も多いはずです。

 以前の記事でも書きましたが、言葉は受け取る相手のことを考えて用いる必要があります。

 「ら抜きことば」をいちいち「日本語の乱れだ!」と目くじらを立てて訂正するのはどうかと思いますが、時と場合によっては、「ら抜きことばではない正しい使い方」をしっかりと使う必要がある、ということもしっかり心にとめておきましょう!