「全然だいじょうぶ」は全然問題なし? ~ことばの乱れ①~ | カンヴァス~徒然国語日記~

2015年7月25日土曜日

「全然だいじょうぶ」は全然問題なし? ~ことばの乱れ①~

 こんにちは、Akiraです。
 記事タイトルを見て、「何のこっちゃ」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。

 今日は、「全然」という言葉の使い方について考えたいと思います。
 




 さて皆さん、こんな台詞を耳にしたことはありませんか?

   「全然大丈夫だよ」
   「全然いいよ」

 私も、つい会話の中で使ってしまうことがあります。


 しかし、この「全然」という言葉、本来は後ろに否定語が続かなくてはなりません!


 「全然」という語は、文法上(規範文法上)、副詞に該当します。

 その中でも、特に陳述(呼応)の副詞と呼ばれるものに属します。
 その名の通り、文末と呼応関係にある副詞のことですね。


 例えば、「けっして」や「めったに」という語は、「けっして遊ばない」、「めったに行かない」というように、文末に否定語を伴い、否定を表す文を作ります。

 否定以外にも、「たぶん」や「きっと」のように、推量を表したり、「もし」「万が一」のように、家庭を表す陳述の副詞もありますよ。


 これにしたがうと、否定を表す陳述の副詞である「全然」を使う際、本来ならば

  • 「全然大丈夫」 → 「全然問題ない
  • 「全然いい」 → 「全然悪くない

というように、後ろに否定語が続く形にする必要があるわけです。



 しかし! そこで、「『全然大丈夫』なんて言葉は、誤用だ! 日本語の乱れだ!」と指摘すると、反論する一派が登場します。

   「あの文豪、夏目漱石だって『全然いい』って文章書いてるぜ!」

 そうなんです、書いちゃってるんです。
 あの名作、『坊ちゃん』に、
「一体生徒が全然悪い」
という一節があるんです。

 しかも、「全然+肯定」を使ったのは、夏目漱石だけじゃありません。
 芥川龍之介や志賀直哉など、明治期の文学界を担う錚々たる面々が、堂々と「全然+肯定」を使っています。


   「なんだ。こいつら、大文豪なんて言われてるくせに、間違った文法使いやがって」

 ……なんて言ってみたいところですが、そういうわけでもありません。


 実は、明治期には、この「全然+肯定文」という使用法は普通に使用されていたんですね(このあたりの詳しい話はまたいつか……)。
 「全然+否定」が正しいとされるようになったのは、戦後です。

 要するに、明治では許されていた「全然+肯定」が、現代では誤用とみなされるようになってしまったわけです(と言っても、現代でも完全な誤用だとは言い切れませんが……)。


 したがって、学校のテストで、「全然大丈夫」と書いてバツを貰った生徒が、「夏目漱石だって使ってたんだから、正解でしょ!」と反論しても「今は明治じゃないんだ、時代に取り残されるな!」と返されるかもしれません。

 言語は次第に変化していくものですから。
 今現在、大多数に認められている使い方なのかが「正解/不正解」を左右するんですね。

 (異論はありますが)現在では「全然+肯定」を認めない人の方が(恐らく)多いため、「全然+肯定」は誤用とされることが多い、となるわけです。
 秘書検定なんかでも、今のところ「全然+肯定」は誤用としてみなされていますよね。



 しかし、実際の生活では、やっぱり使っちゃうのが「全然+肯定」

 一時は、日本語の乱れの顕著な例として、親の仇かというくらい叩かれていましたが、今はその熱も鳴りを潜めています。

 それだけ、「全然+肯定」が日常化しているということでしょう。

 上でも述べましたが、言葉が使われていくうちに、より使いやすい形へと変化していくのは、当然のことです。

 もしかすると、今後、「全然の後には否定が続く」という考え方すらなくなるかもしれません。


 つまるところ、使っていて違和感があるかどうか、というのが、ことばと生活の密着度、ひいてはことばの変化の方向性を考える上では大事になってくると思います。

 今のところ、正式な文書で「全然+肯定」が使われていると、流石に「おいおい、これはちょっとダメだろ……」と思いますが、親しい人との会話で使う分には、違和感はあまりありません。
 LINEなんかだと、会話に近い感覚でやりとりするせいか、わりと普通に使われているように思いますね(あくまで個人的な感想ですが……)。

 明治では一般的だった語法が、誤用になり、現代で再び市民権を得つつある……ってのも何だか不思議な話です。



 さてさて、こうは言ってみましたが、普段使っちゃう「全然+肯定」にも、よく考えると、ある程度のルールがあることがわかります。

 それはズバリ「後ろの肯定は、否定のニュアンスを含んでいること!」

 なんじゃそりゃって? まあ、これだけでは分かりにくいですよね。
 実際に、「全然+肯定」を使う場面を想像してみましょう。


   「ごめ~ん、待ったぁ?」
   「全然大丈夫。俺も今来たとこだし」

   「今度のプレゼン、自信なくって……こういうの、ニガテなのよね」
   「全然できてるよ。自信持てって!」

   「アタシなんかブスだしスタイルも良くないし、ホント嫌になっちゃう」
   「え、そう? 全然ありだけどな。むしろタイプだし」


 ……ほら、分かります?
 この「全然」、相手の話した内容を「そんなことないよ!」否定するために使われてますよね。

 表面的には「全然+肯定」ですが、この肯定には否定的意味が含まれているというわけです。

 したがって、私たちは無意識に「全然+否定」を使っているともいえます。

 もちろん、本当の意味で「全然+肯定」を使っている人もいますが、まだ上記のような使用法が多数を占めているように思われます。
 また、「断然」と「全然」が混同されているとも考えられますね。


 考えれば考えるほど、ややこしいですねー。
 うーん、日本語って難しい……。


 「全然+肯定」について、補足記事を投稿いたしました(2015/08/01)
 よろしければそちらも参照ください。