絵本『いるのいないの』(京極夏彦・文、町田尚子・絵) | カンヴァス~徒然国語日記~

2015年8月3日月曜日

絵本『いるのいないの』(京極夏彦・文、町田尚子・絵)

 最近の絵本って、怖い。
 絵本だとなめてかかったら、かなり驚かされました。


 直木賞作家、京極夏彦さんが文を担当しています、絵本『いるのいないの』
 大人気「怪談えほんシリーズ」の第3弾です。

 さすがは京極先生。淡々と語られる文章が、かなり雰囲気出しております。
そして何より、町田尚子さんの絵がかなり怖い

 大人が読んでも怖い本、として宣伝されていましたが(実際怖いですが)、これこそ子どもに読み聞かせしたいですね(笑)


 以下よりあらすじ(ネタバレ有)です。

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【あらすじ】

 主人公の男の子は、祖母の家で暮らすこととなった。
 古くて広い家。天井には何本もの梁が渡っている。

 ある日、真っ暗な天井を見上げていた男の子は、そこに怒ったような顔の男が「いる」ことに気付いてしまった。
 祖母にそのことを訴えるも、害はないから放っておけと言われる。
 見なければいないのといっしょ、とのこと。

 しかし、やっぱり天井を見上げると、そこには男が「いる」のだった……。



【感想】

 最後の最後まで引っ張って引っ張って……
 最後のページ、「いるからね」の一文と絵で「うわっ!」となります。


 このお話、結局最後まで男が何なのか、この家に何が棲んでいるのか、分からずじまいです。
 なんかよくわからないモノが、上からずっとこっちを見ているだけの話。

 おばあちゃんは「見なければいないのと一緒」と言いますが、それが一番怖い。
 上なんか見なければ、そこに在るものに気付かなかった。

 気付かなければ、いないのと一緒です。


 CLAMP原作のマンガ「×××HoLic」シリーズで度々出てくるテーマと似ていますね。
 ヒトが知らなければ、それはないのと一緒。
 でも一度知ってしまったら、知らなかった頃には戻れない……。


 それはさておき。
 怖い話好きとしては、この絵本にあるテーマは興味深いところです。

 何も知らないおばあちゃんは、「何もしなければ、気付かないふりをしていれば大丈夫」だということを知っています。
 でも、知ってしまった男の子は、もう「気付かないふり」はできません。

 ただ、怖いからといって、何か変化を加えると、男が「害のない」ままでいるとも限りません。
 下に降りてきてしまうかも……。
 やっぱり、そのまま放置するしかないのでしょう。

 まさに、触らぬ神に祟りなしといったところでしょうか。


 更に言うなら、ただ「気付いていない」だけで、私たちのまわりにも「いる」かもしれない、と捉えることもできるわけです。

 「見ない」=「いない」と同じ。男の子はただ「見て」しまっただけ。
 私たちと男の子の差は、気付いたか否か。

 もしかすると、ひょんな拍子に、天井から、物陰から、隙間から……何かが「いる」のを見てしまうかもしれません。


 ほら、何となく上を見上げるのが怖くなってきたでしょう?(笑)


 絵が怖すぎて、出オチみたいになっていますが、ストーリーもかなり考えさせられる内容でした。